009-009

エスゾピクロンの散歩

真っ直ぐ這う

ナメクジがうちへ来て3週間になる。スーパーで買ってきた白菜に穴が開いていたので葉を外側から順に開いていくと、三枚目にギュッと縮こまったナメクジが付いていた。良い機会なので小さいタッパに薄く水を張り、白菜と一緒に蓋をした。この3週の間にブロッコリーやにんじんも入れてみたが、好き嫌いなくよく食べ、よく眠り、一回り大きくなった。それなのに昨夜、何かを思い出したように、突然タッパの壁を登り天井を這い、出口を探し始めた。どうも自分の居場所ではないと悟ったらしい。なんとか元の場所へ帰してやりたいと思い、買った白菜の産地を調べてみると茨城県。うーん。行かないと思う。たとえあなたが真っ直ぐ這ったとしても、生きて辿り着けはしないだろうからせめてここで同種の生息域を探して、そこへ放してやるのが最善かなと考える。名前は“なめ郎”。

 

この文章を書いたのは3年も前のことで、結局なめ郎は小さなタッパの中で生涯を終えた。ある朝なめ郎の輪郭がぼんやりして見えて、近づいてよく見ると体の一部が水に溶けていた。なめ郎が生きていたわずかな期間のことを思い出すとき、同時に浮かぶセリフがある。

「どういう根拠か生まれ変わるらしいな」
仏教徒は転生を信じてる。現世の行いで来世が決まるんだ」
「そこが分からないんだよ。カタツムリは現世でどんな努力をすりゃいい?真っ直ぐ這うとか?」

引用:映画 最高の人生の見つけ方

なめ郎の魂は、結局どこへ行ったのだろう。タッパの天井に向かい、壁を真っ直ぐ這うなめ郎の姿を思い出す。来世のなめ郎の健闘を、祈り続けている。