009-009

エスゾピクロンの散歩

冷夏とのこと

今年は冷夏らしいよ。梅雨が長引くってさ。例年と降雨量は変わらないけど、濃度が薄くて期間が長いらしい。毎日少しずつ降って…そんな感じ。

夏の営業さんが語る。お弁当持参してカウンター席で一人で食べてる私は、背中で聞いている。最後の夏だ。今年が最後じゃなければ次の最後は十年後にやってくるだろう、が。19歳の時も同じこと考えてた。最後の夏だ。21歳の私は存在しないはずだった。たぶん来年も夏を迎えてしまうだろう。

夏が好きだ。けれど今年で終わりだ。それなのに冷夏。夏の意味がない。夏が好きだ私は。日差しが強くて、ハンカチーフのよーにフニャフニャでペラペラの服を着て、汗かいて、ぼんやり遠くを見ている。ときどき熱い風が吹くけれど、なんの慰めにもならない。さらに汗をかく。しかし草木が青々として、空が遠くにある。朦朧とした意識の中で、かつて私にもあった夏休みのことを思い出す。健康だから楽しかったのかな?まあいつもいつでもそんなに賑やかな人生じゃなかった。だいたい一人でいたような気がする。それなのに毎日ときめきがあった。自由じゃなかった。うん。手を伸ばせば届く距離にある自由、穴が開くほど見ていた。それが楽しかったのかな?

自由を手に入れて久しいけれど、毎年夏が来れば、不自由だった夏の日々を思い出す。探さずともそこに自分の居場所が用意されていたことを。