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エスゾピクロンの散歩

世界が終わる夜に

今朝上裸で踊っていると突然轟音が響き渡り、乗って立つだけブルブル振動マッサージのように容赦ない揺れが突拍子もなく来た。寝室の鳥かごに一目散に飛び付いて、揺れが納まったらそれをそっと足元に降ろした。とっさの判断で身分証明書と印鑑をカバンにつっこみ家を出た。今日のところは役に立たなかった。電車は全線動かず、仕方ないので徒歩で2駅先の職場へ向かった。御堂筋の道路沿いに白黒のスーツを着た男女や黄色人種の旅行客なんかがずらっと並んで座り込んで、みんなどこかへ電話しているようだった。近いだろうと思って歩いた30分が意外と遠く、電車への感謝とラブをここに表明。

案外というか当然というか職場には人がほとんどおらず、到着しただけで上司らから讃えられ、褒められた。そんな下心はなかったのに。

本震は明日、明後日のうちに来るだろうと家族や友人、同僚から耳にタコができるほど聞いたので覚悟はできている。今晩の私は一味違う。浴槽一杯に水を張り、炊いたご飯を次々冷凍した。非常時持ち出し用バッグに物を詰め、ベッドの下にはいつものスニーカーも設置した。モルフォ蝶の標本をプチプチに包んだ。カワイイ服やカワイイ鞄、カワイイ靴は非常時なんの役にも立たないって知ってた。けど集めてた、カワイイ物の使命はただカワイくあることだと思うから。彼女らはもう寿命。全部捨てていくんだ。大事なものなんてほとんどないって自分で知ってた。死にたい死にたい言う割に、他者から奪われるのは気に食わなくて、つい抗ってしまう。私は嫌いなんだ。決めた通りに進まないことが。他人の都合で予定を遅らされたり、台無しになっちゃうことが。だから殺人も嫌いで自然災害も許せない。私の決めた通りに生きたい。この日と思う日にバッチリ死にたい。私の邪魔をするなら相手が何だろうが抗ってやるぜ、ソイヤ!ソイヤ!そんな心意気でございます。生きてる前提で組んでるスケジュール、死んだらなくなっちゃう。そんなの許せる?無理です!世界が終わる夜に作って食べたトマトリゾットの味、現世最後のきらめきになり得るなんて、そんなの、そんなの…!なんとなく死を付き飛ばしたり受け入れたりして揺れる思い。明日はどっちだ。