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エスゾピクロンの散歩

HANNA

映画「ハンナ」を観た。泣かなかった。なぜなら主人公のハンナはいつどの瞬間にも心が動かなかったからである。主人公と自動的に感情が同期。まるでケーブルで繋がれたように。そんな私の涙腺も今回は出番無し。

彼女(主人公の少女)は生まれてこのかた雪の降る深い森の奥で人知れず父親に育てられてきた。学校へ行かず、教育はすべて父の持つ辞書から。4ヶ国後と殺人スキル、日々の筋トレ、狩りの練習。16歳に至るまでただアサシンとしての実力を極めた。実力が父(元CIAの工作員)を上回った確証を得て、少女は森を抜け、世界へ…からの宿敵とのバトルが待っているというあるある展開。デンジャラスな日々の幕開けというわけです。

ネタバレをしますが、ラストはラスボスを倒して終わりです。それまでに無駄に死んだ人々なんやったん?!とか道中で知り合ったあの子たちとのハッピーエンドは無いんかいな?みたいな伏線散らかしっぱなし映画でストーリー全体でいえば現実的すぎるというか深みがなかったというか。だがそんなことはどうでもいい。

少女ハンナは、逃亡中に同い年くらいの女の子に出会う。「変な子ね」「変わっているわね」たびたび投げかけられる言葉。ハンナは女の子の乗ってきたキャンピングカーに忍び込み、到着地で謀らずして彼女に再会し、「まさか私達の車に忍び込んで?」と驚かれドン引きされる。

ハンナ「私のこと、他の人に話す?」

女の子「話さないわ。変人だけど、私あなたが好きよ」

 

イケメン二人ナンパして夜遊びに繰り出すハンナたち。良い雰囲気になってキスをされそうになるが、首に手を掛けられた途端条件反射で男の子を捻じ伏せてしまう。(アサシン少女あるあるポイント高い)何してんの!とハンナをテントに連れ戻す女の子。二人横になって、女の子がハンナに問う。

「私たち、友達だよね」

「友達って?」

「あなたのことが好き(like)だから、もう友達よ」

「私もあなたが好き(love)」

それで口にキスをする。友達っていいなと独り言を漏らす。父しか他人を知らないハンナが初めて違う誰かに心をひらく。さっき背負い投げした男の子とは違う。ハンナにとって最初の友愛を認めた瞬間なんだ。これまで森で父以外の誰と話をすることもなく、感情が薄く(特殊な遺伝操作により)殺人に特化した訓練だけを16まで受け続けてきた彼女に一瞬だけ舞い降りた深い愛情。この映画の尊さの全ては中盤のこのシーンに詰まってる。なんならこの部分だけ観たほうが感動が早い。私は女の友情系の作品にめっぽう弱い。涙もろい。なぜなら私にないから。ただ相手を思い合うだけの普通の友情が、私にとってはファンタジーだから。未来的だから。

この部分にだけ触れたくて今日は書いた。観よう。ロングショットはつまらないが、ズームアップだと案外喜びが詰まっている。関係ないけど視覚的にも楽しい。カメラワークが独特で、ちょっとテクノなBGMに合わせて画がリズムを取っていく。会話のシーン以外全部良くできたMVとでも思って観りゃケチつけずに済みそう。

 

お話はいつも、たった一瞬の輝きの為に長くつまらなく出来ている?