009-009

エスゾピクロンの散歩

のぞみ

夜行バスではだめだ、夜の新幹線でなければ。夜の新幹線に乗って窓辺をぼんやり眺めてほしい、背もたれに沈み込んで。見ていてほしい、光が伸びて線になる街の残像を。かつてそんな日があったような気がしてやすらぐ。頻繁に死について想像するけれど、不思議と生きた心地がするのだ窓を覗いていると。メリーゴーランドに乗っているような、乗っていること以外何も気にしなくていいような。新大阪で降り忘れてはならないが。過ぎ去り途切れる光の線が、たとえば私にとっての過去だったとする。今見えている残像も、いずれ途切れてしまうだろうが、今見えているものが私のすべてだ。連続する。連続して、線が重なって、気付かないうちに途絶えて、また始まって、停車駅が近づくと整列されたライトの光が差し込んでふと我に返る。新幹線が走行する間、思い出す私が存在した。この瞬間もぶつ切れた2つの光線の間。過去の私と現在の私は共通の過去の延長線上に立っているわけではなく、途切れた線の繋ぎ目を跨いでお互い離れた点に立っている。飛行機じゃだめなんだ観覧車じゃだめなんだ、のぞみでなければそれは分からない。