009-009

エスゾピクロンの散歩

蟻をいじめて遊んだ

大丈夫だよ!だから水を流し込んでみよう。アリさんの巣にはドアが付いていて、赤ちゃんはお母さんの隣の部屋で寝ているの。だから、大丈夫だよ!

おう、やっちゃえやっちゃえ。

 

かき氷を食っていたら親子の会話が耳に入ってきて胸糞悪くなる。アリは好きじゃない。苦手だ。一番苦手な虫だ。しかし無駄な殺生はよくない。無意味な攻撃も。自然じゃないから…。としか言いようがない。

昔を思い出していた。父の実家の庭には様々な虫が住み着いており、その中にはもちろんアリもいた。踏んで歩くのが2歳の私の趣味で、それが良いか悪いか、分からなかった。興味もなかった。他の人はどうだろう。自分以外も本物で、生きていると知ったのはいつ?踏み潰したアリを指差し祖母に見せた。同じように楽しんでくれると思ったから。

 

「家へ帰る途中だったのに。あなたが踏み潰してしまったから、もう家族に会えない。このアリさんにはお母さんや兄弟、もしかすると子供がいたかもしれない。でももう会えない。なんてかわいそうなの。見て、アリさんが泣いているわ。」

 

2歳の頃の記憶が抜けない。あまりに衝撃的で、忘れられない。白い階段の上から4段目で潰れた大きなアリ。曇り空がおばあちゃんの深刻そうな表情をよりはっきりと見せた。

殺したのだと悟った。アリさんはただ潰れたのではなく、死んだのだ。私が殺した。一匹のアリの死がとてつもなく大きなことに思えた。(無論小さなことではないが)

元に戻せない。生き返らない。私のせいで家へ帰れない。どうしたら?

 

どうにもできなかったので今まで引きずっている。

 

生物については義務教育の9年間と高校の3年間、あとは社会に出てから飼育した生き物の為に学習する機会があったが、あれほど為になった教育はない。

祖母はもうない。私が20歳の時に亡くなった。あの日のことを知るのは私と祖母のふたりだけ。今更何をどう考えても行動してもすべてが元通りにならない。逆に、どんどん遠ざかっていく。

 

「もっとやれ」

かき氷が溶けた。親子はまだアリをいじめて遊んでいた。アリが本物と知らずに。