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ロングロングプロフィール

たこ焼きピック

面白いことなんか言おうと思ってない。私はいつも当然のように真面目だ。冗談もほとんど言わない。誤解が怖いから。つまらない話はしたくない。だから黙ってる。需要と供給がクロスするポイントに立っていたい。常に望まれただけ与えられれば。

高校二年の春、ベランダに身を乗り出したが「逃げるな」と親に引っ張られ部屋へ連れ戻された。あれが最初で最後だ。それから前向きに自決を検討する日々を送るが腹を括れず気が付けば10年。四捨五入をすれば30になる。今さら死んでも美しくもなんともない。

髪の毛を伸ばさない。襟足が首筋に触れて痒くなった頃、短く切り揃えに美容院へ行く。嫌だった。女に女と認識され密かに大きな敵意を向けられることが。男に女と意識され要らぬ壁が立ちはだかることが。男になりたいなんて言ってない。ただ女をやめたかった。私は男でも女でもない普通の人間として生きたかった。

かつて人を殺そうと考えた。アイスピックでめった刺しがお似合いだと思ったので家中を探した。見つかったのはたこ焼きピックだった。仕方がないのでこれでいこうと決めた。カバンの中に入れた。その夜、転職を勧められた。私は結局、誰の命も奪わなかった。

高校の三年間、続けて付き合った男の子がいた。別の学校へ通っていた。うちはルールが厳しいので、付き合ってわりとすぐに彼とのデートを禁じられた。門限も五時半だし、学校の帰りにこっそり会ったとて日も落ちないうちに家へ帰った。門限は一分でも遅れたらアウトで、泣いてお願いするまで家に入れてもらえなかった。私が泣いて許可を乞うている間に彼は余った時間を有効に活用し、他の女の子ともよく遊んだ。彼のことが原因で入院したことがあったが、逆に彼は「もう俺の心も身体もボロボロだ(お前のせいで)」と自分の身を案じていた。私は心底呆れたが、そういうところが逆によかったのかもしれない。私を心配し気遣う母なんかは、本当にボロボロに見えた。私のせいでずたずたになるくらいなら、自分のために傷ついてくれた方が、気持ちが楽だった。彼の思いやりのなさに惹かれて一年が過ぎた頃、両親から彼との交際か通学の二択を迫られた。今思えばあんな男の子は捨てて自分だけの青春を謳歌すればよかったのに、私は三時間も同じ体勢(なぜか土下座)で悩み続けた。三つ目の選択肢を提示されたとき、簡単に飛び付いた。それから二年間、テストの成績を上位20%以内に保ちながら週5のバイトで学費や食費、交際費を稼ぎ、自分の家事は自分でやった。不思議な光景だった。家族みんなが食卓を去り寝静まる頃、鍋やフライパンを借り、見るからに怪しい飯を作り、一人で食べた。自分で作った飯は、まことに少なくまずいものである。その条件を満たしてもなお堂々と会うことは許されなかったが、忍んで二ヶ月に一度は彼に会った。両親は私から通信機器や家の鍵を取り上げて、彼と引き離そうと躍起になったが、これがまた火に油を注ぐこととなり、高二の冬に私は家出した。一週間だったが珍しい日々だった。五時半以降の景色を知った。夜に食べる吉野家の牛丼はおいしい。しかし最終日に彼は泣いて「このままじゃ俺が誘拐犯にされちゃうよ」と訴えた。呆れて、家へ帰った。大学は指定校推薦でと考えていた。急に伸びた後半二年の成績のおかげでなんとかうまくいきそうだった。話は進んだ。両親も、学費は負担するので出世払いで返してくれるようと言って後押ししてくれた。その話をしたくて彼に会ったらばったり母親に遭遇した。帰ったら口も聞いてくれなかった。それですっかり両親の機嫌を損ねて進学の話がパアになったのだ。変な話だ。行きたきゃ自分の金で行きなよと突っぱねられたが残高は329円、入学すらできぬ。叔母や祖父母に詰め寄られたが本当の話をできなかった。だってこんなにばかばかしいし。当の彼は他の女と子供を作ってさっさと結婚してしまった。

私は無事就職して、人を殺そうと考えた。それ以外、選択肢が無かった。