009-009

エスゾピクロンの散歩

ノーメイク・ノーパンツ


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メイクして服を着るのが果たして嘘の人生なのかな?それはさておきところ構わず服を脱ぎ肌に風を感じるのは楽しいことだと思う。本当の風も本当の水もこの肌を通してしか知ることができないから私たち人間はなんとかして飛んだり潜ったりするんです。地球現象には伝聞のみでは理解できぬ愛おしさがあるのです。

文フリにまつわるエトセトラ


f:id:nikolog:20170925235038j:imageサークル てふ「ら」


f:id:nikolog:20170925235049j:image左/平川マオ「おいでよ!ボリウッド」右/かたち「私よ、こんにちは」


f:id:nikolog:20170925235141j:imageサークル アイスコーヒー 歌集「赤い犬」「青い犬」

 

0918月祝 大阪文学フリマにてゲットした本を撮り集めたらオシャレっぽくなった。文学は、ファッションと密接な関係を築いている?それは存ぜぬ。今はかたちさんの本を読み進めてる最中。進捗15ページ。(全98ページ、道程は遠い。)

ただ私は女。今は男の身体で暮らしているけれど四、五時間前までは延々なるかわいこちゃんでありました。紳士性など育む必要なく天真爛漫に暮らしていました。そう云うわけです。時間を経て紳士になるわけです。今の私は想像の紳士に過ぎません。(「私よ、こんにちは」P11)

今夜のお気に入りはここ。今後も続々見つかってゆくことでしょう。本を読む意義のたいていはここにあります。男と女が自意識交換なんて使い古されたネタをまたなぜなどやはり愚問だったのだと自分の中の自分に教えてあげます。進捗10%ですでに右ストレート頬に受けた気分。読み終える頃には真っ白に燃え尽きているかも。沙奈は中学生ながらも自分の性を理解しその特権を利用して生きてきた。そして、その自覚がある。身体はともかく普通より早熟で達観した女の子なのだ彼女は。自己理解のある女の子。現実世界にはどの層にもあまり見ない。身の丈を知る女の子だ。だからこそ新しい状況も簡単に受け入れる。理解する。これまでの特権はすべて無効化される。そのことに彼女は動じない。理解しているから。

 

かたちさんの文には句読点があまりない。音読すると声が絶え絶えになる。でもそのスピード感がいいのかな、私はなんだか夜のサイクリングへ出かけたときのような、広々とした気分に。文が繋がっているということは、ここからここまで空間が同じですということ。文が点で止まらないということは、空間は広く大きいのだ。きっとかたちさんの世界は広く大きいのだと思う。今日は、ここまで。

GASUMARU

 

 

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店長「俺は君のような正直な人が好きだよ」

弟「はい」

 

今はもうないけどアメ村に弟行きつけのガスマスク屋があった。きれいなひとたちのきれいな会話に混じって話せなかった。何も話したくなかった。何を話しても彼らのガラスを曇らせてしまう気がした。何も話さずただ店長と弟の透明なやりとりにうっとりしていた。

 

ジュン

何年前だかそれすら忘れた。そのイベントには外タレが来ててフロアは無駄に沸いてた。DJデジタリズム。マンゴージュースでハイになって私は針金のようにカツンカツン、ヒラヒラ、ときどきヒトにぶつかりながら踊った。汗だくで叫んでいた。わけの分からない言葉を。クラブにいるときの私は変だった。ウィッグをかぶって、カラコンを目に入れて、つけまつげをして、タイトなミニスカートにハイヒールを合わせた。私じゃなくなりたかった。その時の私はちょうど、音楽になりたいと思ってた。ヒトとはうまくやっていけないけれど、音楽となら一緒になれるんじゃないかって気がしてた。スピーカーからブッ飛んで来る爆音は空っぽの内臓によく響いた。瞼を下ろすとピンクの細胞が透けて見えた。おじいちゃんは元神風特攻隊員。片道飛行機に乗ろうとしたとき戦争が終わったんだって。私は奇跡の子なんだって。身体を音楽が通過している間おじいちゃんの話を思い出してる。音楽が私に触れた途端溶けて、背中側からまた突き抜けていく。何度そういう妄想をしたってこの生活からは解放されない。分かっていたけれど、そのときだけは。音楽が私になって、また音楽に戻っていくとき。音楽が私を通り過ぎるそのときだけは完全に私を放棄したような気になれた。

プレイも終盤に差し掛かりそろそろ引き上げようとしたとき出会った美しい男がジュン君。月から来た男。カツラを取って化粧を落としてパジャマになって、私じゃなくなった私を見てもいつもと変わらず接した。私の本質になど興味がないといった風で。ときどきクラブへ一緒に通った。彼の日課はボロボロになって帰ってきた私を布団に寝かし付け「009は変じゃない。変じゃないよ。普通の女の子。ありふれてる。」と私が納得するまで何度も言い聞かせること。私は変じゃなかった。それなのに、周りとの関係に歪が生じていた。でも私は変じゃなかった。それを分かるために毎晩彼の部屋に向かう必要があった。彼は何事にも動じることなくそらまあそんなこともありますわなといった態度で私の妙な言動も受け流してきた。器の広い人なのだ。別れた人についてとやかくいうのもどうかと思うけど。彼はほとんど、私の保護者だった。ジュン君の美しさは2ヶ月くらいで消えた。はりぼてだった。そんなことは知っていた。どうでも良かった。普通だと思われたくて普通の人の仕草やイントネーションを真似てみる。服を似せてみる。みんな笑ったら私もちゃんと笑う。それが私には難しかった。私と周囲の人間との違いがわからなかった。だから心配なくて、つまるところ私もみんなの中のひとりに過ぎないのだと安心する。でも翌朝からまた変だ変だ浮いていると言われた。ジュン君は続けた。009は変じゃない。ちゃんと考えてる。普通の女の子。どこから見ても普通の女の子。

あれも何年前の話になるのかわからないが彼の言ったとおり、彼のいない世界で普通を装って生活している。ファッションや髪型が派手だから、内面に寄せていこうと思った。髪を黒く染め短く切った。つけまつげもカラコンもカツラもかぶらない。ミニスカートもピンヒールも処分した。もう他の誰にもなれないが私は私だ。普通に見えたくて、派手な友達と絡むのをやめた。常識人っぽい人間を側に置いて、私は安心していた。こうすりゃ常識人っぽいでしょ?

それでもやっぱり俗っぽいことに疎くて日常会話はつまらない。ビュッフェみたいに元取る為に多めに皿に盛られたケーキの欠片みたいな気持ちになる。やがて消費される、でも食べた人の記憶に残らない。そんな人との無駄な会話を延々と続けなければならない。使い捨てにされる私とその言葉。違和感を持っててもヘラヘラ笑ってる。たまらなく不愉快になって、たまに、誰を責めれば良いのかわからない日は夢の中のジュン君に会いに行く。変じゃないよ。君は普通の女の子。変じゃないよ、ありふれてる。