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エスゾピクロンの散歩

生きた心地のしない長い一日にも、夜は必ず訪れて、つかの間の夢を私に見せてくれる。

眠る前に死にかけた日のことを思い出す。プツンと糸が切れてすべてが無になるようなあの感覚のことを。人に話すと怖いと言われる。人は死を恐れてる。

分からないから怖いんだろうな。だけど夜の睡眠は死の予行演習。何年も何十年も繰り返すうちに、みんなだんだん死の感覚を掴めてきて、そのうち怖くなくなるんだろうな。

そのときに私達はやっと、死の感覚について対等に話せるようになるのだろう。

待つよ。死ぬのが怖くなくなったとき、私達は本当の意味で、お互いの存在を大切に思えるんだろうな。

孫である私から

私のおじいさんへ。孫である私から。

コロナだなんだかんだの理由をつけて老人ホームへ会いに行かなくなって2年、いやもっと時間が経っているのかもしれない。心穏やかに過ごして、眠るように息を引き取ってほしい。孫である私の願いは非常にシンプルなものであった。

だけど今日、家族から、おじいちゃんがなんと、喘息発作で危篤となっているという報せがあった。

 

私は大丈夫。おじいちゃんが居なくなってしまう日のことを、物心ついた頃からずっと想像してきた。何度も重ねた予行演習のおかげで、パニックを回避できた。

だけど腑に落ちないのは、死にものぐるいで生きて、想像を絶する苦労の末に、見事に輝かしい成功を納め、あふれる優しさを周りの人たちへ惜しみなく注いできたおじいちゃんが、実際にはガメつい親族に利用され、老人ホームに入所した途端に来訪者の姿が見えなくなったこと、果ては病に臥し、おそらく苦しみながら亡くなってしまうであろうことだ。この仕打ちはなんなのかと、仏などに問いたい。因果応報なんていうけれど、人の命は儚いから、なんらかの因果がやがて報われに戻ってきたとしても、その頃には既におじいちゃんはこの世にいないだろう。憤りを感じる。そして、遠い将来の私の姿をおじいちゃんに重ねている。人生の成功可否はさておき、私もやがて辿る道なのだろう。

 

おじいちゃん、ひ孫の顔が見たいと言ったね。叶わず、申し訳ありませんでした。子供を産まない選択は、私なりに考え抜いた結論です。

本当は、自分が生まれてきたこと自体最悪だと思っている。心療内科のお医者さんに「セロトニンの分泌量が健常者の1/4くらい」と言われている。私がほとんど幸せを感じられないのは、大方それが原因なんだと思う。だけどそうじゃなくて、些細な憂鬱が蓄積された私の人生のことを、最悪だと思っている。

戦争を生き抜き、会社を立ち上げ、様々な困難に立ち向かい今の人生を手に入れたおじいちゃんの耳にこういう話を入れることは絶対にできなかった。けど正直、生まれてこなければよかったと思っている。せっかくあなたの孫に生まれたのに、根性もなくどうしようもない人間で申し訳ありません。このつらい世の中に、到底自分の子を送り出すことはできません。生きることの苦しみを、我が子にだけは知らずにいてほしいから、やはり子は作れません。

 

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以降は訃報後の追記 2022/04/28

 

ただ、最悪な人生ながらも生まれてきた意味はあると思っている。私が生まれた日に、おじいちゃんは喜んで病院で踊ったって、母から聞いた。話を聞いたとき、ぼんやり、それで良かったんだと思った。悲しい思いや、痛い思い、みじめな思いをすることがたくさんあったけれど、そんなときは、しょっちゅうおじいちゃんの踊りを想像した。見ていないし、知りもしないのに、私の頭の中でおじいちゃんが踊ると、私の人生が報われたような気がした。生まれてきたことに、意味を見出すことができた。私の存在を肯定するおじいちゃんは、もうこの世にいないけれど、これからも、やりきれない思いをする度に、見たことのない、おじいちゃんの踊りを想像するのだと思う。

それと、私の生まれた記念に、おじいちゃんが庭に植えてくれた桜の木。あれは早々に毛虫の餌食になって朽ち果てたって聞いてる。まるで私そのものみたいで、なんか同情する。

あと一つだけ、外せない話。私が高校卒業後就職して、初任給でお寿司をご馳走したでしょ。二人でご飯を食べに行ったのはあれが最初で最後になったね。何も考えていなかったけれど、待ち合わせ場所におじいちゃんを見つけた途端、「奢るよ」と口をついて出た。

持ち合わせのお金はたったの七千円しかなかったのに。足りなかったらどうするつもりだったのだろう。それでそのときおじいちゃんは、私にはそんな大人になってほしかったんだと言ってくれた。私の人生は、全部あのときに精算されたんだと思っている。

今までに起きたつらい出来事や、これから起こる悲しい出来事、全部足してもおじいちゃんのあの一言でお釣りが来るよ。何よりも私の生を支えている言葉だ。

最悪な人生だったし、これからもずっと最悪な人生なんだろうけど、私はおじいちゃんの為に生まれて、そして、くれた言葉や伝聞を何もかも真に受けたまま死んでいく。

おじいちゃん、永遠にさようなら。

真っ直ぐ這う

ナメクジがうちへ来て3週間になる。スーパーで買ってきた白菜に穴が開いていたので葉を外側から順に開いていくと、三枚目にギュッと縮こまったナメクジが付いていた。良い機会なので小さいタッパに薄く水を張り、白菜と一緒に蓋をした。この3週の間にブロッコリーやにんじんも入れてみたが、好き嫌いなくよく食べ、よく眠り、一回り大きくなった。それなのに昨夜、何かを思い出したように、突然タッパの壁を登り天井を這い、出口を探し始めた。どうも自分の居場所ではないと悟ったらしい。なんとか元の場所へ帰してやりたいと思い、買った白菜の産地を調べてみると茨城県。うーん。行かないと思う。たとえあなたが真っ直ぐ這ったとしても、生きて辿り着けはしないだろうからせめてここで同種の生息域を探して、そこへ放してやるのが最善かなと考える。名前は“なめ郎”。

 

この文章を書いたのは3年も前のことで、結局なめ郎は小さなタッパの中で生涯を終えた。ある朝なめ郎の輪郭がぼんやりして見えて、近づいてよく見ると体の一部が水に溶けていた。なめ郎が生きていたわずかな期間のことを思い出すとき、同時に浮かぶセリフがある。

「どういう根拠か生まれ変わるらしいな」
仏教徒は転生を信じてる。現世の行いで来世が決まるんだ」
「そこが分からないんだよ。カタツムリは現世でどんな努力をすりゃいい?真っ直ぐ這うとか?」

引用:映画 最高の人生の見つけ方

なめ郎の魂は、結局どこへ行ったのだろう。タッパの天井に向かい、壁を真っ直ぐ這うなめ郎の姿を思い出す。来世のなめ郎の健闘を、祈り続けている。

2021年 まとめ

訪れた銭湯・温泉
  • チムジルバンスパ神戸
  • 灘温泉 六甲道店(世にも珍しい天然炭酸泉)
  • 二宮温泉(いつもの。)
  • ゆうゆうランド紀の国(単純温泉。温まり方が早い)
  • 菊水温泉(軟水)
  • 芦原温泉エステバスの勢いがヤバすぎておばあさん吹っ飛んでた)
  • 第一平和温泉 龍の湯(カランがクラシカル過ぎて使い方が分からなかった)
  • 恋野温泉 うはらの湯(スーパー銭湯。立地以外何もかもが最高)
  • HATなぎさの湯(スーパー銭湯。3種のサウナあり。常連サウナー大喋り)
  • あぐろの湯(スーパー銭湯。かなりの賑わい)

 

良い漫画

 

良い映画

 

怖客(こわきゃく)の発言
  • 「アンタと違ってねぇ、コッチは仕事してるんだよ」
  • 「ホームページの規約なんか読んでるわけないでしょ!返金して!!キャンセル!!」
  • 「まさかお金を払わせるんですか?お客様に」
  • 「(注文品が設置できなかった為)心がズタズタに傷付きましたよ。今年一番傷付いた」

@お客様各位 昨年はご期待に添えず、誠に申し訳ございませんでした。

 

一〇〇〇 一〇〇〇 一〇〇〇 一〇〇〇

 

行動と発言の振り返り

1月

  • 姫路までドライブした。

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  • 柿ピーにボールチェーンを通せる穴が付いてたので、しばらく持ち歩いた。

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  • 李寧のスニーカーを買った。

《発言》

・NO MUSIC, NO LIFE〜そんな気持ちになったことない〜

・何度転職しても転職欲が満たされることはない。睡眠欲の次に強い欲求。

・テレワークは精神衛生上よい

・脳に電極を埋め込み、価値ある人生へ

・紅トロすしは最高で、私の人生より価値があった。

2月

  • 淡路島へドライブした。

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  • バレンタインデーはイカ羊羹をプレゼント。

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《発言》

・ガウンコートの中の、ウンコの部分。

島根県の温泉付きビジホに宿泊した際水圧が強すぎてシャワーに押し潰されるかと思ったし、温泉に浸かってたらあとから入ってきた婆さんがシャワーで身体洗い始めて、婆さんの股の間から素早い水が飛んできて私の顔面に直撃したことがあったので、それからなんとなくビジホの温泉は怖いと思っている。

3月

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  • 鷹取でいい看板見つけた。

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《発言》

・AIが素肌と認めたファンデーション(575)

・(映画エヴァンゲリオンの話)旧新比較だけど「ごめんなさい。 こういうときどんな顔すればいいのか分からないの」と「笑えばいいと思うよ」の"間"が新で改悪(尺的な問題だろうけど)されていて、情緒もへったくれも無かったような記憶がある。旧エヴァは沈黙が感情を語る描写が多く、そこがいいなと思っているので、新エヴァ序破でのスピード再生で私の中のエヴァをグチャグチャに踏み荒らされたような気持ちになった。

・(化粧品ブランド&beの話)&beのメイク用品総じて良くてとにかく貢いでしまう。ファンシーラーには特に呆れ返るほど感心させられた。とにかくナチュラル&自然なツヤ&血色&透明感。&beのファンシーラーでクマとシミ消してグロウハイライターでちょっとツヤ足したら自分の肌美しすぎて24時間鏡眺めてても飽きないからな。朝メイクして夕方にはもともとこうだったような気がしてくるんだけど、夜メイク落としたら全然ゾンビでマジビックリしてしまう。

4月

  • 810sのサンダルを購入
  • 4月は毎年引きこもりがち

《発言》

・かわいい女の子が踊ってる様子だけ見て生きたい

・(エヴァンゲリオンの話)旧劇のラストでシンジがアスカの首を締めたのって“他者の存在する世界を望んだものの、やはり他者が自分の存在を脅かすことに変わりはない”と感じたからなんじゃないかといまさら思う。

「傷付いても怖くても他者のいる世界がいい!」→「言ってはみたが、やっぱり他人は怖い。殺しちゃお…」みたいな。

5月

  • たこ焼きを買って海へ行く。
  • 刺繍(クロスステッチ)に挑戦する。モチーフは銭湯のタイルアート。

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  • 新じゃがを放置しすぎて旧じゃがになってしまう。

《発言》

・マスクにフェイスシールドかけてるおじさん、SF感があって良いなってか今の世が正にSFで良い。

・死ぬこと以外かすり傷みたいなこと言うけど、死んだほうが傷浅いこともあるよね。

・こんな食生活、あすけん(ダイエットアプリ)に見られたら八つ裂き通り越して二十四つ裂きくらいビリビリにされそう。

6月

  • ステーキ屋さん ビッグシェフへ。シェフから何の記念日か訊かれたが「なんでもないただの一日です」と正直に答える。
  • ゾゾグラスでパーソナルカラー診断。ブルベ夏とのこと。
  • お客様から「どうせ私も数多くの客の中の一人と思われているのでしょうけど」とメンヘラセフレみたいなことを言われたけど、「まさか!どのお客様もたった一人の大切なお客様でございます」とヤリチン対応しておいた。
  • アリにパンの欠片をあげる昼休み。
  • 飼鳥たちが意思疎通を始める。

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《発言》

・(宇多田ヒカルの曲)one last kiss と First Loveの「最後のキス」が同一のものとすれば、それは「タバコのflavor」がしたに違いない。

・つべこべ言わずに皆で恋愛革命(LOVE REVOLUTION)をやれ。

・職場のワクチン打たない人に対して「オーガニック系ですね」と言ってる人いて、解釈面白かった。

7月
  • ボーナスが少なくて怒りのダンスを踊る
  • 大切にしていたベランダ観葉植物のひとつが、鳩に連れ去られた。
  • もみあげを刈り上げた。
  • 何かお探しですか?と聞かれて「私はその、エイチエムデー、いや、エムエイチアイのケーブル……そのようなものを探してるのですが」と答えたら、ちゃんとHDMIのケーブルを持ってきてくれて感動した。
  • 東加古川駅で降りてみた。何もなかった。カツめしだけがあった。(駅徒歩30分)
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《発言》

・風邪予防の為、日頃から鼻毛は大切にしています。

・やはりミナミはぶっ飛びパッパラパ〜な服の人が多くて安心する。

8月

  • 日向に落ちてたセミを、日陰に寄せておいた。
  • まあまあ専門知識必要な割に研修もなくて、自習で補って仕事してきたんだけど、先日研修を忘れられていたことが発覚して、入社2年目にして初の社内研修を受ける運びとなった。
  • 漫画 ゴールデンカムイを読む。推しは白石。
  • 魚のシャツ届いた。

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《発言》

・カロリーは気にしたら負け。カロリーに負けるな。全てを食い尽くせ。

・今朝ゴロピカドンの豪雨だったのに今カンカン照りなのヤンデレ気味で恐怖を感じる。

・これだけは覚えておいてください。「謝って済むのが最も安上がり」です。謝り倒して事なきを得てください。

9月

  • こめかみまで刈り上げた。
  • 1回目のワクチンを摂取
  • イヤホン挿して穏やかな気持ちでショパンピアノ曲聴いていたが、よく見たらケーブルがスマホに繋がってなくて、実際には何の音も流れていなかった。
  • 映画 整形水を鑑賞。
  • 危うく越前リョーマへの想いが再燃しそうになり危機感を覚えた為、もう二度と映画を観に行かなくて済むようにポスター付きのジャンプSQと映画パンフを買って手打ちとした。

《発言》

・生きてるだけで良いって、誰も言ってくれないから働いてるんですよ!

・(映画 リョーマ!の話)何なのかよく分からない異国の食べ物を口に詰め込まれて、アガアガもがいてるうちに、ブワッと謎の多幸感に包まれて、食べ物が何なのかとかすべてどうでも良くなってくる感じに近い。

・これは私の感想なんだけど、都会の人間は人を人と思っていない。電柱みたいな存在。目が合って会話して初めて他人と認識できる。

・コンクールで金賞取ってる吹奏楽部員、ふくらはぎの筋肉ムキムキなんだよな。

・知らん間にセミが死んで、秋。

・(映画 整形水の話)世界のどこかで、この主人公と同じように幼少の頃から外見で判断され見下され差別され、大人になる頃には心が捻くれ切って元に戻らなくなってしまった人たちが居るのかもしれないと思うと悲しいと思った。でも私にはどうすることもできない。面食いだから……。

10月

  • 朝に鎮痛剤と間違い睡眠導入剤を飲んでしまって、何をしても吐き出せず、フンワリ頭で出勤。絶叫系のクレーマーにも微動だにしない澄んだ心で宥め、ご納得いただける説明をできたし、お客様には「あなたのような良心的なスタッフに対応してもらえて良かった」と褒めてもらえた。
  • 業者の人が何かの定期メンテに来てくれるんだけど、何のメンテか思い出せなくて、カレンダーのタイトルに「何かが来る」って登録した。
  • 身体測定で視力測ってもらったら左目0.1、右目99.9の数値を叩き出した。「測定不可能です」とのこと。
  • 赤穂へ旅行 【銀波荘】に宿泊した。

《発言》

・もう31年も生きてるのに未だに、特にスーパーの肉・魚コーナーを散歩するたびに、今日の為に死んだ命があることに衝撃を受け、気を失いそうになる。 

・何の苦難もなく平和に生きてきたという人に出会ったことがあるけど、それもその人の捉え方だと思うし、もし本当にそうだとしたら、日々を穏便にやり過ごす物凄い技術があるんだと思う。いい人なんだ。やり手なんだよ。

11月

  • 部署異動し平穏を手に入れた。上司が人格者!
  • 飾り人参に挑戦。

12月

  • 「ここの餃子が美味しいと聞いて来たのよ〜」とおばあさんが来店し、焼き飯だけオーダーした。ビビった。
  • 遺伝子検査キット【ジーンライフ ジェネシス2.0】を購入した。結果が出るのは来月。GeneLife Genesis2.0|遺伝子検査のジーンライフ
  • 課長面談で、何でも聞いてね!と言われたので「最短で昇進できる方法」を教えてもらった。『聞きづらいことだったろうに、腹を割って話してくれてありがとう』と言われて、やってもうたかも…と気づいた。
  • 舞子プロムナードへ。

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なんでもない過去の波打ち際に

力無く転がっている。浜辺へ徐々に流れ着いた鮎のように。胸鰭に僅かなはためきがあった。それでも次の波が押し寄せては力無く波に引きずり込まれていった。繰り返しているうちに力尽きて、波に遊ばれて死んでしまった鮎のように。

空が青く雲のない日、頬に当たる風に、二度とないからと目に焼き付けた風景。駅までの道のりやひたすらに長い閑静な商店街、銭湯帰りの真っ暗な夜、スーパーの鮮魚コーナーに並んだ魚の透明な瞳、発泡スチロールの容器の底に滲む淡い血の色。半額シールが貼られた豚肉、フライにされたエビ、芯の見えてるリップクリーム、死んだ白血球を抱え込んだ一枚のティッシュ、破れかけのスニーカー。3回着たけどしっくりこなくて来週メルカリに出品する洋服。みんな今日の私の為に死んだ命だった。誰が気づかず通り過ぎても、私は彼らから目をそらさない。誰を信じても自分はひとりということ。この私もまた、誰かの為にカジュアルに、消費されるときが来るだろう。誰を抱き締めても結局幸せにはなれないと、いつか分かるときが来るだろう。若い自分がかつて抱いたはち切れそうな気持ちが今は、干しぶどうみたいにちっちゃくしぼんでいたことに気がついた。賞味期限が切れたお風呂上がりの体感、沖縄のあつい空気、ビル風、目の前を通り過ぎた蝶の羽音、全部いまだけの存在。私を通り過ぎて、あんなにも遠くにいるのに、まだ、光ってる。もし、毎日コンビニ弁当だったとしても、嫌われて、目の敵にされても。くたくたに疲れていても。そういう全部がキラキラして見えるのかもね。ちゃちいビーズ細工の指輪みたい。偽物。それなのに、大切にしまってある。だってそれすらも、いつか薄れてなくなる。

夜はコールドスリープだ。

かくいう愛はプラスチネーションだ。

この夜を止めるべく、街ごとコールドスリープだ。2021年の標本として、私が街を彩るよ。命も愛も燃えている。今が旬。鮮度は高いほうがいい。10,000年の時を経て、何もかもに飢えた静かな世界が訪れたとき、この街を解凍して、すこしずつ元に戻して。

眠りから醒めた、鮮度良好な街、空、すずめ、ガソリンスタンド、愛、虫、電柱、音楽、そして眠りから醒めてもなお感傷に浸る新鮮な私の心を。

消費してほしい。今を生きる私達の、なんでもない日々の蓄積が、いつか空虚な未来を生きるあなたにとっての、心躍るときめきになれるなら。

眠り

どうしてか眠りに落ちる寸前に、言葉による見返りを求めたくなる。

悲しんでる人、困っている人、怒っている人。みんな平等に優しくしてあげる。

人はわりと当たり前のように受け取る。差し出された手が自分のものだと疑わない。自分は、手を差し伸べられて当然。そんなふうに思ったりするのだろうか。

無限ではない優しさを振りまいてニコニコしている。私はどちらかというと普通の意地悪な女だと思う。それでも、自分の中に複数の選択肢がある場合は、その中でもっとも道徳的な言動を選ぶようにしている。『人格者たれ、人格者たれ』心で唱えて人格者たる。いつでも本心を置き去りにしている。私の本心よりも、人格者たることが大切だから。だけどこの葛藤をいつか誰かが見抜く日がくるだろうか。きっとない。

それでも今日も嫌々ながら正しいと信じる私を演って、あなたに恩を売った。

だったらあなたも、思ってなくとも構わないから、せめて一日が終わる夜に「あなたがいてくれてよかった」と伝えてくれたなら。この優しさは、この正しさはただ浪費されたのではなかったのだと、自分に言い聞かすことができるのに。私がいてよかった?いてもいなくてもよかった?全部私の妄想で、思い上がりで、自己満足に過ぎなかった?そうでないなら教えてほしい。今日が終わる前に。